FPSにエイムアシストは必要なのか
クロスプラットフォーム化を控えたApex Legendsで、恐らく一番の問題になるであろうエイムアシストについて、私見をまとめる事にした。
Apex Legends
Apex Legendsとは、2019年冬にリリースされたバトルロイヤルのFPSで、『レジェンド』と呼ばれるそれぞれ異なる能力を持つキャラクターを選んで戦う。
リリース当初から絶大な人気を誇り、今ではゲームに触れる人なら知らない人が居ないと言えるほどの人気ゲームとなった。
最近では、シーズン6の大規模アップデートやPC/PS4/Switchのクロスプラットフォーム化等の予告で、ゲームは更に勢いを増している。
エイムアシスト
『エイムアシスト(Aim Assist)』とは、FPSゲーム等ターゲットを画面の中心に捉える必要の有るゲームで、ターゲットに対し一定時間自動的に照準を合わせてくれる機能で、この機能を用いると照準が困難な動きの速いターゲットでも照準する事が可能となる。
Apex LegendsではCS版とPC版のコントローラーに実装されていて、CS版はPC版よりも強力なエイムアシストが利用できる。
実際にApex Legendsのプログラム内部からCS版とPC版のエイムアシストの強度を示す数値が発見されていて、ノーアシストを表す0から完全な永久自動追尾を表す1までの数値で、PC版の0.4に対しCS版は0.6に設定されている。
最近のApex Legendsを取り巻く状況
このエイムアシストに関連して、最近のApex Legendsでは『複数のプロゲーマーがマウス/キーボードを捨ててコントローラーに乗り換え始める』という奇妙な事件が起こっている。
私がこれを”奇妙”だと思う理由は、”プロゲーマーが”コントローラーに乗り換えた点である。
これがもし『新規プレイヤーがゲームを始める時にマウスよりもコントローラーが多くなった』という話なら恐らくこのような記事は書かなかったと思う。
問題は『マウス/キーボードで数千時間はプレイしたであろうプレイヤーがそれらを捨てる選択をした』ところにある。
少なくとも一般ゲーマーよりも勝ちが重要になるプロゲーマーがコントローラーを練習するという事は、数千時間分のマウス/キーボードの貯蓄よりも魅力的な何かがコントローラーにはあるという事である。
なぜこのような状況になったのか
Apex Legendsは銃のダメージに比べて体力が高いため、最近のゲームでは珍しい敵を照準し続ける『トラッキングエイム』が必要となる。
左右に細かく動く敵を100%照準し続ける事は人間の反応時間的に不可能に近く、特に移動の折り返しの部分ではどんな人間でも照準が敵から外れてしまう。
先ほど紹介したエイムアシストは難しい折り返しの部分も含め一定時間ターゲットを捕捉する事ができ、これは相手の動きに即時反応しているのと同じである。
つまり、数千時間プレイして『人間の生物的な不可能』に直面したプレイヤーにとって、エイムアシストはまさに禁断の果実で、それを手に入れるためにコントローラーに移行せざるを得なかったのではないかと考えている。
この状況に感じる疑問
さて、この状況で私が一番感じる疑問は『なぜPC版でコントローラーにエイムアシストが実装されているのか』である。
私が知る限り、PCゲーム界隈では『自分が使いやすいと思うデバイスを使え』というのが一般論で、例えば「トラックボールでプレイしてるんだけど全然勝てない」というような意見があって、これに対し「マウスとかペンタブを使ってみたら」という反応はあっても、「トラックボール使用者には配慮が必要だよね」という反応は無かったはずである。
マウスに話を限定しても、『使いやすいマウスを探せ』という風潮が強く、その結果として昨今の軽量マウスブームが到来したと言える。
つまり、多種多様なデバイスを使用可能なPCゲームでは、『快適にプレイするためのデバイス』の問題は、少なくとも開発者ではなくプレイヤーが解決すべき問題だったはずだ。
コントローラーへの配慮の必要性
現在のPC版Apex Legendsでは、コントローラーに開発者側から手が差し伸べられている。
はたして、PCゲームでコントローラーに特別な配慮をする必要はあるのだろうか。
マウス/キーボードとコントローラーのどちらが難しいかという議論はひとまず置いておいて、エイムアシストが無いとコントローラーが使いづらいと思うプレイヤーに、PCゲームでわざわざコントローラーを使わせる必要はあるのか疑問である。
もちろん、”コントローラーしか使う事が出来ないゲーム”のコントローラーにエイムアシストが実装される事は、エイムアシストまで含めてそのゲームだと言えるので問題は無い。
しかし、様々な選択肢がある中で、特定の選択にのみ救済策を用意するのは、少々違うと思う。
クロスプラットフォームへの懸念
最初に述べた通り、Apex LegendsはPC版とCS版のクロスプラットフォーム化を控えていて、PC版とCS版ではエイムアシストの強度が違っている。
この状態のままクロスプラットフォーム化すると、今度は『同じコントローラーで何故エイムアシストの強度が違うのか』という更なる問題が発生すると思われる。
さらに、私の知っているクロスプラットフォーム化では、何故かCS版からPC版への乱入は可能なのに逆は不可能という仕様になりがちなので、もしその仕様で実装されると、より強力なエイムアシストを持ったコントローラープレイヤーによって、エイムアシスト問題がより一層加熱するのではないかと思う。
クロスプラットフォーム化によって総人口が増えるのは嬉しいが、それによってPC版とCS版のユーザーに軋轢が生じる結果にだけはならないで欲しいと思う。
FPSにエイムアシストは必要なのか
ここまで、エイムアシストについて記事を書いて来たが、私としては『FPSにエイムアシストは不要である』というのが結論である。
少なくとも、デバイスの選択肢が複数ある中で、特定のデバイスへの救済策としてエイムアシストを実装するのは間違っていると思う。
コントローラーにエイムアシストが実装されている理由として最も聞くのは『マウス/キーボードよりも正確な操作が難しいから』だが、本当にそうであると言える根拠が無い以上、これがエイムアシストを実装すべき理由にはならない。
マウス/キーボードで正確な操作が出来るのはプレイヤーが練習に練習を重ねた結果であって、最初から正確な操作が出来るわけではない。
同じように、コントローラーも最初は正確な操作は出来ないだろうが、練習を重ねると正確な操作が可能になるはずだ。
先日、ペンタブレットでApexをプレイする動画が話題になったように、どのデバイスも練習を続ければ必ず上手くなるので、特定のデバイスに特別な配慮をするべきではないと私は思う。
まして、特別な配慮によって、そのデバイスを選択肢に入れなくてはならないような状況には間違ってもしてはならない。
最後に、Apex Legendsがこの問題をどれくらい深刻に考えていてどのように対処するのか私には分からないが、デバイスによって批判を受けるユーザーが居ない、皆が公平性を感じるゲームになって欲しいと思う。